ブラジル音楽界の奇才、エルメート・パスコアール。長年“伝説かつ幻の演奏家”としてヤカンから鳥、豚と言った生物の鳴き声など、あらゆる万物 を楽器に替え、鍾乳洞に潜りこみ残響を巧みに操るパフォーマンスなど奇抜なパフォーマンス映像により世に存在が喧伝されて来たが、近年の来日公演などで高い演奏スキルに裏付けられたインプロヴァイザーとしての姿が明るみとなった。
1936年、ブラジル北東部、アラゴアス州出身。幼年期からバンドネオンやフルートなど複数の楽器を学び、10 代半ばにはラジオやクラブでの演奏活動などでキャリアをスタート。ブラジル音楽史に彼の名が最初に刻まれたのは、67年盟友アイアート・モレイラらと結成 したカルテット、クアルテート・ノーヴォでの活躍だろう。ジャズとブラジル音楽の融合を目指し僅か1枚のアルバムを残し解散したグループだが、その音楽的 功績は高く近年のCD再発の際にもその先進性は高く評価された。
70年代に入るとアイアートと共に、マイルス・デイヴィスとの交流が始まり、エルメートはアレンジャーとして参加。エレクトリック期のマイルスの傑作ライヴ『Live Evil』にメンバーとして参加後、再びブラジルに戻り『Slaves Mass』(1978)、『zabumbe-bum-a』(1979)、『cerebro magnetico』(1980)といった、ブラジル音楽の多彩なリズムとプログレッシブロック/フュージョンなどを融合した先進的な演奏、さらに上記の動物の鳴き声などを交えた奇抜なサウンドを確立し欧米のジャズシーンでも大きな成功を収めた。